知らない?じゃ、三法師って言えばわかるよね。でも、この三法師って、ボクの小っちゃい頃の名前だからね。もう、9歳からは織田秀信なんだから……。いつまでも子供扱いしないでくれる。
なんてたって、ボクは織田家の当主なんだから。でも、正直、パパとジッチャンの記憶はない。まだ、3歳だったからね。でも、大勢の大人たちに下から睨まれたのは覚えている。あれはパパとジッチャンのお葬式だったんだ。ボクは秀吉のジイチャンに抱かれていたんで、みんな、当主のボクに頭を下げているんだけど、それは秀吉のジイチャンに頭を下げることになるなってしまうんで、それで秀吉を睨みつけていたんけど、ボクは自分が睨みつけられているようで恐かったのを覚えている。
それから、ボクも成長して色々勉強して、事情がわかってきたけど、秀吉のジイチャンはやさしかったよ。うちのジッチャンの草履取りから出世して、関白にまでなった人。こんな、ゲコクジョウの世の中で、ジッチャンとパパの仇を討ってくれたし、小さいボクと弟を保護してくれた人だもの。弟は秀則って言うの。でも、知らないよね。この名前だって。
本当ならボクが「信秀」で弟が「信則」になるのが普通なんだけど、その時ボクは9歳だったんだからね。よくわからなかった。3歳とか9歳とか言うけど、今の満年齢ではなく、昔は数え年(生れた年1歳として正月の度に1歳ずつ歳を数えていく)なんだから、本当はもっと小さかったの。それなら、周りの者が反対してくれればいいのに、誰も秀吉のジイチャンには何も言えなかったくせに……。
そして、信雄おじさんだって、秀吉ジイチャンとは色々あり、信孝おじさんとか言う人を殺したりしてるけど、それでも何かと秀吉ジイチャンを頼りにしてるんだわ、これが。お陰で、ボクが岐阜城に住んでいるわけ。ちなみに、信雄おじさんとパパは母親が同じだけど、信孝って人の母親は身分の低い女で、ボクは信孝には会ったこともない。何より、ジッチャンの妹の娘のお茶々おばさんが、秀頼クンを生んでいるんだから。織田と豊臣はわかりやすく言えば仲良しで、秀吉ジイチャンは頼りになる人。それにしても、信長のジッチャンてすごい人だったんだね!
そりゃ、ジッチャンがあのまま生きていてくれたら、僕は天下人の孫から、やがては天下人になれたわけだけど、そのジッチャンもパパも死んでしまったのだからどうしようもない……。後の世の人は、ジッチャンが死んだのを幸いに秀吉ジイチャンが天下を取ったとか言うけど、子供のボクに何が出来たと言うの。それどころか、その秀吉ジイチャンが病気で死んでしまった。
それからの方が大変だった。ボクは死んだジッチャンに負けまいと、舞や風雅の道に精を出していたのに、秀頼クンからの使いが来て、江戸の田舎から徳川家康が攻めてくるので、大坂に味方してくれれば、美濃と尾張をくれると言うから、僕は即座にOKした。
これこそ、織田信長の孫ってところを世間に見せつけるいいチャンス。ボクはジッチャンやパパのヨロイ・カブトを参考にして、作ったよ。すごいド派手なのを。織田信長の孫、ここに見参!とやってやるつもりだった。でも、関が原の合戦前に攻めてくるなんて、ルール違反だよ……。
そこは、ジッチャンの名にかけて!関が原でカッコいいところを見せたかったのに。なんと言っても、ボクは、織田家当主、なんだ!
それがね、ジッチャンの頃には名前も聞いたこともない、福島正則、黒田長政ってヤツラが、無茶苦茶攻めてきやんの。こっちは織田家なんだから少しは手加減しろよ。それにさ、秀頼クンの嫁は家康の孫で、その母親はお茶々おばさんの妹じゃない。だから、そんな大した戦にはならないと思ってたわけよ。つーか、秀頼クンもお茶々おばさんも何やってんのさ。
もう、ボクは悔しくて悔しくて、自殺しようとしたんだけど、引き止められて、高野山へ行くことになって。でもさ、高野山へ行ってみれば、昔、高野山にひどいことをした信長の孫って、ことで白い目で見られて……。知らないよ、僕が生れる前のことじゃない。ボクは仏教を迫害したことなんかないつーの。それにね、この辺り、夜になるとものすごく静かで、ものすごく暗くて不気味なんだ。ボク、もう、発狂しそうになった。
で、結局、病気になって……。でも、その間にボクは自分を見つめなおしてみた。そしたら、ボクって利用されただけなんだね。でも、ボクに何が出来たと言うの……。そんなこと考えていたら、病気はちっともよくならず、ボクは26歳で死んでしまった。
何も出来なかったボクだけど、秀吉ジイチャンが後10年くらい長生きしてくれたら、秀信って名前ももっと知られていたと思う。だから、僕のこと、忘れないで。えっ、試験に出ないから、知らないって、そんなこと、言わないでよぉ。
そう言えば、バッチャンって、どうしたんだろう……。
明日は何の日・6月28日
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