1938年昭和13年、詩人、高村光太郎の妻智恵子が、レモンをかじった数時間後に亡くなった日。智恵子が精神を患った時から、死後のことは詩集「智恵子抄」のなかに、その時々の詩があり、中でも「レモン哀歌」は多くの特に女性の心を惹きつけてやまない。
そのレモンはミカン科の常緑低木で、檸檬。別名枸櫞(クエン)クエン酸の由来になっている。国産のレモンは青いけど、輸入のレモンは鮮やかな黄色をしている。これは品種が違うのではなく、バナナ同様、青いうちに出荷され完熟して黄色になる。そして、昔はレモンも高価なものだった。大学卒の初任給が1万円くらいのとき、200円もしたというから、とても庶民が手をだせるものではなかったけど、安価な輸入ものが入って来るようになってからは、紅茶や肉料理に欠かせないものになってきた。
日本で紅茶といえば、レモンティー。喫茶店やレストランで紅茶を注文すれば、いつでもレモンのスライスがついてくる。それ程に紅茶にレモンは切っても切れないものとなっている。レモンティーはアメリカ生まれ。だから、紅茶の本場、イギリスでは邪道とされている。イギリスで紅茶といえば、ミルクティー。私はレモンのさわやかさも味も好きだけど、紅茶に入れると色が薄くなるのが許せない。コーヒーでもミルクを入れると口当たりが良くなるけど、色が変わってしまうのがこれまた許せない。紅茶とは紅い茶色、コーヒーとは焦げ茶色の飲み物であって、ミルクで色の変わったコーヒーはミルク入りコーヒー、ミルク入り紅茶でしかない。だから、今はどちらもほとんどストレートで飲んでいる。余談だけど、コーヒーについているミルクは、本当のミルクではなく油だから。油を白く着色してミルクのようにしてあるだけ。
紅茶の色を決めるのは、タンニンから変化した橙色のテアフラビンや濃赤色のテアルビジン。テアルビジンは酸性度が弱いと赤みが強く、強いと薄くなるという特徴がある。レモンで紅茶の色が薄くなるのはクエン酸で酸性度が強くなったためで、蜂蜜を入れると濃くなるのは、蜂蜜の中の鉄分とタンニンが反応して、黒色タンニン鉄ができるため。これでは何も入れない方がいい!
レモンいえばビタミンC。レモン味=ビタミンCの味となっている。だが、レモンの酸っぱさはクエン酸で、ビタミンC(アスコルビンサン)も酸っぱいけど、それをかき消すほどクエン酸は酸っぱさを持っている。また、レモンはビタミンCの宝庫のように思われていて、レモン何個分のビタミンCに相当するとかで、ビタミンCの含有量の基準になっていたりするけど、レモンのビタミンCは100グラムあたり20ミリグラム。それも皮の方に多く含まれている。ならば、レモンの皮でマーマレードを作ればいい。でも、それは国産の無農薬レモンならビタミン豊富なマーマレードがてきるけど、輸入レモンにはポストハーベストと言う農薬が使われているので、ビタミンCより農薬の害の方が心配。そんな手間なことをするより、イチゴやブロッコリーから摂取した方が効率がいい。でも、レモンのクエン酸には抗酸化作用があり、ミネラルの吸収促進効果がビタミンCとの組み合わせによって高まるという利点がある。
レモンはビタミンカラーとも言われているけど、実際のビタミンCは無色透明、黄色にこだわる必要はないのに、レモンっぽくしておいた方が効目がありそうと、気持ちの問題でしかない。また、日本ではレモンに、さわやかでフレッシュなメージを持っているけど、それは日本独自のもので、欧米では意地悪な女の意味。だから、外人女性にはレモンを引き合いに出さない方がいいし、アメリカでは安っぽいもののイメージがある。
昭和13年ごろなら、レモンを売っている店も少なく、かなり高価なものだったと思う。そんなレモンを妻の元に届ける夫。なんとうるわしい夫婦愛……。
だが、現実の死とは、そんなに美しいものではない。ドラマのように、最後に思いを口にして死ねる人がどれだけいるだろうか。高村光太郎の場合でも、「智恵子抄」だけ読めば、ものすごく献身的に妻を気遣った夫のように思われるが、実際には週に一度見舞っていたかと思えば、数ヶ月見舞いにも行かないときもあった。そのことを責めるつもりはないけど、彼は智恵子のことを書いた詩によって、その地位をゆるぎないものにした。それでも、光太郎にとって、智恵子はかけがえのない女性であり、智恵子の死後、夜空に向かってその名を呼び続けることもあった。
ニュートンがリンゴが木から落ちるのを見て、万有引力の法則を発見した。アメリカ大統領のワシントンが子供の頃、桜の枝を折ったことを正直に告白した。ジェンナーが最初に種痘を行ったのは我が子。これらのエピソードはウソと言うより、後で「創作」されたものだった。
高村智恵子も、本当にレモンをかじった数時間後に亡くなったのだろうか……。
明日は何の日・10月5日
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